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かつて Zamenhof 伝記といえば、Privat の Vivo de Zamenhofでした。エスペランティストな ら誰でも読む、と言われました。現在では、類書といえば、Boulton のものを始めエスペラン トでも日本語でも多数出回っていますし、第一、Zamenhof の相対的位置が低下しつつある今日 においては、Privat の伝記は必読書とは言えなくなりました。
いずれにしろ、全てのエスペランティストが読み、エスぺランティストの共通の文化を形成した 同書の意義は重要です。Zamenhof を同時代人の目で見、虚飾を排した文体の中に、彫り込んでいった Zamenhof ヘの尊敬の念で満ちた同書は、エスペランティストにとって聖典の役割を果た したのではないでしょうか。
では、その伝記はいかなる形をしていたのでしょうか。残念ながら現在入手可能な第五版の同 書では、当時の雰囲気をそのまま伝えることは不可能です。現行版は、ハードカバーで堅牢ではありますが、味もそっけもありません。 その点、私の手元にあるl920年の初版は、BEAの出版、パリでの印刷ですが、うす茶色 の表紙に、バラと思われるわくに、ハープ、星、ライオンとHBMのイニシャルがあしらってあ ります。このHBMとは、英国で最初のエスぺラント雑誌、The Esperantist を出し、のちBEAの初期の会長にもなった Bolringvroke Mudie のこと です。その遺徳を称えて、Bolringvroke Mudie 文庫が創設され、その第一号として出版された のが、Privat の Vivo de Zamenhof であったのです。ちなみにこの「Mudie 文庫」はこれが最初で最後のタイトルとなりました。
版型は現行とほぼ同じで、ページは207頁。中身に関しては、現行との違いは、第一に目次 が巻末に置かれ、さらに各章の冒頭にも、こまぎれにされて置かれていること。活字が小さめで、その分マージンに余裕があることです。また、写真も多少異同があります。
まず現行版になくて、初版にあるものとして、Mudie の顔写真、Zamenhof のl878年の顔写真、 ビアリストークの Zamenof 通り( 旧名Verda strato )と、ビアリストークの広場通りの写真 である。また現行版にあって初版にない写真は、1937年のワルシャワ大会での遺族の写真と、 Zamenofの墓の写真です。なお、初版では、写真のために用いられたページも、ページ数の中に 組込まれているのはおもしろいことです。
Privat は、最初の Zamenof 伝記を書いたが、その他に、Historio de la Lingvo Esperanto (unua parto 1912,dua parto 1927)が存在します。私の手元には、このunua parto 初版のみが 存在します。この第一部は、1887-1900の歴史を扱っていて、エスペラントの歴史を扱ったものでは、ごく初期のものの一つです。大きさは157*116mm。
ページは54ページのパンフレットです。表紙はうす茶色でUniversala Esperanta Librerjo の 発行とあります。活字は小さくぎっしりとつまっていて、紙自体も粗悪で、あまり読みごこちを考えているとは言えませんし、時々、単語と、単語の間が連なっていたり、誤植が多少目立つ感 じです。しかしながら内容は、理路整然としていて、歴史をてっとりばやく概観できるものがあります。ほぽ時を同じくして出版された、Z.Adam (Adam Zakrezewski)の Historio de Esperanto(これも入手済みです)に比べれば入門扱いといった感じです。
Privat といえば、忘れてはならないのが、Esprimo de sentoj en Esperanto(1931)です。
Givoje の Panoramo de Esperanta Literaturo に、この著作が1913年出版とありますが、とんだ 間違いです。初版は172*120mmで、茶色の紙表紙です。発行はジュネーブのUEA、印刷はドイツです。表紙の紙は、表面に起伏があり、少しこった造りの紙です。また、ハードカバーの本の ように表紙が小口の部分ではり出してあり、少し格調を上げさせている様子です。
エスペラントは、出版からその歴史が始まりました。エスペラントの歴史は、かなりの部分を 出版にたよっています。最も効率的な文化継承の手段は本だと言われます。であれば、エスペラント文化は、エスペランティスト自身にとっても、奇異な掘り出し物にぶち当たる世界です。 次回からも、さらにエスペラント書にこだわってみたいと思います。