通信より

イタリアの田舎町でザメンホフに会った

伊藤俊彦

7月22日から31日まで、妻と息子の3人で5度目のイタリア旅行をした。イタリア北部のベルガモ、マントヴァ、ヴィチェンツァ、トレヴィーゾ、ヴェローナといった小都市をめぐる気楽な旅である。とにかく、日頃の職場や地域のしがらみを忘れて、全く無名の異邦人として外国の町をさまよい、息抜きをしたいということだけが旅行の目的である。そんなわけで、上記の町々へ電車で訪れては、旧市街の通りをぶらついたり、教会に入って涼んだり、広場に面した野外のカフェで行き交う人を眺めたり、小さな町のレストランで田舎風の料理を食べたりしていた。

さて、旅行も最後に近づいた28日に、ウーディネという町を訪れた。ヴェネツィアから電車で北東に1時間半ほど行ったところにある。以前は栄耀栄華を誇ったが、今は静かな地方都市である。この町の中心には、リベルタ広場という広場があって、ヴェネツィア風の繊細な意匠をほどこしたロッジアが向かい合って建っている。青い空に白いロッジアが映えて美しい。もうここから動きたくないという気持ちを起こさせる、実に美しい広場である。

広場に接して小高い丘があって、カステッロというから、以前に城があった場所である。広場の脇からそこへ上ってゆく道沿いに、繊細を極めるデザインの回廊が続いていて、これもすばらしく美しい(「美しい」というばかりで、どうもあまり芸がないが)。

さらに、別の方向から城跡へと緑濃い坂道が続いていて、木漏れ日のなかを風に吹かれながら散策していると、実に気持ちがよい。おりしもマラソン大会が行われていて、ゼッケンをつけた男女が次々に苦しそうに坂道を上ってくる。われわれは坂道の途中で、城壁にもたれて、しばらくマラソンを見物することとした。道を間違えそうになる選手がいて、こっちこっちと合図してやる。選手たちはチャオなどと言いながら、われわれの前を通り過ぎてゆく。

ザメンホフのレリーフ ザメンホフのレリーフそうこうしているうちに、妻がふと後ろの城壁を見上げたら、そこに何とザメンホフのレリーフがわれわれを見下ろしていたのである。旅行中、エスペラントのことはまるで念頭になく、イタリアのはずれまで来てザメンホフにお目にかかるとは全く予想していなかったので、少々驚いた。どんな具合かは写真のとおりである。

帰国してから UEA の JARLIBRO を見ると、ウーディネにも delegito がいるようであるが、くだんのレリーフがいつごろ、どういういきさつでできたのかはわからない。エスペラントのモニュメントを集めた本があるらしいので、それを調べればわかるのだろうが、怠慢でまだ調べるに至っていない。外国の街角でザメンホフに会ったのは、もう10数年前、ウィーンでザメンホフの銅像に遭遇して以来のことである。というわけで、とりあえず報告まで。

(センター通信 n-ro 233, 2002年9月2日)


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